第56回 2015・12・16

 

金崎城を救えず⑥


気比斉晴  、膂力有り、善く泳ぐ。舟に太子を載す。楫櫓無し。綱を舟に施し、之を執りて游ぐ。游ぐごと千余歩、蕪木浦に至り、土人に託して之を杣山に奉ぜしめ、金崎に帰り死す。具滋・顕寛 、事畢ると謂い、門を開き陣を冒し、進みて師泰 に薄る。賊、其の疲羸を認め、覯れば輙ち之を殺す。凡そ城兵八百、降る者十二入のみ。其の余は皆死す。栗生  顕友 ・船田経政  等四人、岩穴に匿れて冤る。太子、蕪木浦に匿る。浦人叛き、之を賊に告ぐ。賊、太子を取り、義貞  兄弟の所在を問う。。太子欺きて曰く、「昨白殺し、其の兵之を焚く」と。賊乃ち太子を尊氏  に押送し、義顕 の首を傳えて、義貞 を問わず。

 

気比斉晴は膂力があり、善く泳いだ。舟に太子を載せた。楫櫓はない。綱を舟に施し、之を執り、泳いだ。泳ぐごと千余歩、蕪木浦に至った、土人に託して杣山に奉じさせ、金崎に帰り、死んだ。具滋・顕寛は事が終わったといい、門を開き、陣を冒し、進み、師泰に迫った。賊は疲れ切っているのを認め、出会うとすぐ殺した。凡そ城兵八百のうち、降参する者十二入のみ。残りは皆死んだ。栗生 顕友 ・船田経政等四人は岩穴に匿れ、冤れた。太子は蕪木浦に隠れた。浦人は叛き、賊に告げた。賊は太子を取り、義貞兄弟の所在を問うた。太子は欺き「昨日、殺し、兵は之を焚いた」と。賊は太子を尊氏 に押送し、義顕の首を傳えて、義貞について詮索しなかった。

 

第55回 2015・12・16

 

金崎城を救えず⑤

 

 逗撓すること二旬、金崎の兵、馬を食う。馬尽きて、食う可き者無し。賊候いて之を知り、四面より斉しく登る。城兵力竭きて戦う能はず。外城既に破る。由良具滋 ・長浜  顕寛  、入りて義顕 に見えて曰く、「事已に此に至る。東宮を脱せしめて留死せん。臣等請う、拒ぎ戦わん。君、徐に計を為せ」と。五十人を率いて出で、死尸を割き、相共に之を食い、力めて前門を拒ぐ。義 、皇子尊良に謂いて曰く、「臣は将種なり。死せざるべからず。殿下は臣と異なり。遽に自ち残う勿れ」と。皇子笑いて曰く、「吾、卿の死を視て、豈に独り生く可けんや」と。因りて義顕 に自殺の方如何と問いたまう。義顕 曰く、「臣の為す所を視たまへ」と。即ち刀を拔き、自ら左脇に樹て、劃して其の右に至り、刀を皇子に奉じて伏す。皇子、刀を取る。血滑にして握るべからず。握るにか衣袖を以てし、自刃して死す。藤原 行房 ・里見時義 ・武田 与一  ・気比 氏治  等、皆之に殉死す。

 

金崎城の兵士は馬を食べていたが、馬が尽きて、食べるものがなくなった。賊はこれを知って四面から一斉に登った。城兵は力竭き、戦うことができない。外城は既に破れてしまった。由良具滋 ・長浜 顕寛は入り、義顕に会っていうには、「事はすでに此に至った。東宮を脱せさせ、皆で死にましょう。私は拒ぎ、戦います、君は徐に自害なさい」と。五十人を率いて出で、屍を割き、相共に之を食い、懸命に前門を拒いだ。義 は皇子の尊良に「私は将の家柄に忌まれました。死なないわけにはいきません。殿下は私と異なり、早まってご自害されてはいけません」と。皇子は笑「吾は卿の死を視て、どうして独り生きることができましょうか」と。そこで義顕に自殺の方法は如何と問うた。義顕は「私の為す所を視たまへ」といい、刀を拔き、自ら左脇に樹て、劃して、其の右に至り、刀を皇子に奉じて倒れた。皇子は刀を取った。血滑にして握ることができない。握るに衣袖を用い、自刃して死んだ。藤原行房 ・里見時義 ・武田与一 ・気比 氏治等は皆殉死した。

 

第54回 2015・12・15

 

金崎城を救えず④

 

金崎の城中、日に杣山の援を望めども至らず。已にして糧竭く。義貞  ・義助 、愛する所の馬を殺し、以て士卒に食わしむ。将士皆其の出でて杣山に赴き以て夾攻を計ることを勧む。義貞・義助 、之に従う。三月、河島 維頼 を以て郷導と為し、夜に乗じて城を出で、潜に杣山城に入る。 城兵大に喜び、日に金崎を援うことを議す。而して賊兵、暖に乗じて来り聚り、十万騎に至る。杣山の兵僅に五百人、甲馬備らず。

 

金崎の城中では毎日、杣山の援を望んだが、やてこない。已に糧は底をついた。義貞 ・義助は愛する馬を殺し、士卒に食べさせた。将士は皆、出て杣山に赴き、夾攻を計ることを勧めた。義貞・義助は従った。三月、河島 維頼 を道案内とし、夜に乗じて城を出て、潜に杣山城に入った。 城兵は大に喜び、金崎を援うことを議論。賊兵は暖に乗じて集まりきて、十万騎に至った。杣山の兵は僅に五百人、甲馬は備っていなかった。


第53回 2015・12・14

 

金崎城を救えず③

 

泰藤 ・政貞 檣を隔てて之を聞きて曰く、「此の子、心腸有る此の如し。吾が曹曷ぞ力を出さゞる可げんや」と。 明年 (1137)四月、里見  時成 を推して将と為し、五千騎を以金崎を救う。師泰  、兵二万を遣して逆え戦う。諸将、敗走し、時 、賊の囲む所と為る。・義鑑、身を挺して赴き援う。其の三弟、之に従わんと欲す。義鑑叱して曰く、「吾が兄弟皆死せば、誰か式部の君を翼くる者ぞと。三弟乃ち止む。時成・・義鑑  皆死し、余衆走りて、杣山に帰る。保に老母有り。酒を酌み義治に獻じて曰く、「児輩力めず。乃ち里見み公を失う。然れども兒輩をして尽く還らしめば、則ち妾の心何と云はん。今二児、命を致す。妾の「心を慰するに足るのみ」と。将士、之が為めに奮激す。然れども力再挙する能はず。

 

 泰藤 ・政貞は垣根を隔てて、之を聞いて「此の方はここまで情け深い。どうして力をふるわないでいられるだろうか」と。 明年 (1137)四月、里見 時成 を推して大将とし、五千騎で金崎を救った。師泰は兵二万を遣し、逆って戦った。諸将は敗走し、時成は賊の囲む所となった。 ・義鑑は身を挺して赴き、援った。三弟は之に従おうとした。義鑑は叱り、「吾が兄弟が皆死ねば、誰が式部の君を助けるのか、と。三弟は止めた。時成・・義鑑は皆死に、余った衆は走り、杣山に帰った。保に老母がいた。酒を酌み義治に獻じていうには、「児がもし帰ったら申し訳のたたないことでした。しかし二人の子を失いました。これで慰められます」。将士はこれを聞いて奮激した。しかし力再挙することはせきなかった。

 

第52回 2015・12・13

 

金崎城を救えず②

 

師泰 、之を聞き、六千騎を遣して來り撃たしむ、保 、悉く聚落を焚き、故に湯尾一駅を遺して、敵を誘う。敵至り、駅中に宿す。保 、泰藤 と軽兵を遣し、夜、襲いて之を敗る。足利高経、兵を引き国府に帰ると聞き、又要撃て之を破る。旁近、風を望み、争いて義治に附く。義治、不与の色有り。義鑑ぎ曰く、「郎君、喜ぶべくして憂うるは何ぞや」と。曰く、「金崎城主の苦を思ひて爾り」と。義鑑泣下る。

 

師泰はこれを聞き、六千騎を遣して、撃たせた。保は悉く聚落を焚き、わざと湯尾一駅だけを遺し、敵を誘った。敵はやってきて駅中に宿した。保は泰藤と軽兵を遣し、夜、襲って敗った。足利高経は兵を引き、国府に帰ると聞き、又待ち受けて、撃って、之を破った。周辺の人々はこれを見て争いうように義治についた。義治は不機嫌であった。義鑑は「郎君、喜ぶべきなのに、憂うるはなぜなのか」と訊いた。「金崎城主の苦を思いやっているからだ」と答えた。義鑑は泣いて下っていった。

 

 

 

第51回 2015・12・12

 

金崎城を救えず

 

時に瓜生保  、賊軍に属し、城下に在り。而して其の諸弟、杣山に起りて、義貞 に応ず。保、将に抜きて還らんとし、同志の者を得んと思う。宇都宮泰藤・天野政貞  、保と営を隣る。一日、客有り、二人に問いて曰く、「重画と中黒と孰れか美なる」と。泰藤曰く、「中黒なる哉。三鱗廃れて重画興る。重画に代るは中黒に非ずや」と。三鱗は、北氏の黴号なり。政貞曰く、「然り」と。保聞きて窃に喜び漸く二人と款し、因りて其の志を告ぐ。二人、之に同ず。時に師泰  、四もに関を設け、符を以て出入せしむ。保詐りて百五十人を以て、邑に菽を取らんと請う吏、符を紿すること其の言の如くす。、符を削り、三百人と書し、泰藤  ・政貞 と倶に関を出でて杣山に入る。羲鑑  及び三弟源琳 ・重・ 、皆大に喜び、義治  を推して将と為し、旗を挙げて兵を招く、兵聚るもの千余。北道を扼守す。

 

瓜生保は賊軍に属し、城下にいたが、諸弟に杣山で兵を起こし、義貞に味方した。保も将に賊軍中から抜けて還ろうとし、同志の者を得ようと思った。宇都宮泰藤・天野政貞は保と営が隣りあわせになった。ある日、客がきて、二人に問うには「重画と中黒といずれが美しいか」と。泰藤は「中黒でしょう。三鱗は廃れて二つ引きが興った。二つ引きに代わるのは中黒ではあるまいか」と。三鱗は、北條氏の紋所である。政貞は「そうだ」と。保は聞いてひそかに喜び、徐々に二人と親しくなり、其の志を告げた。二人は之に賛同した。当時、高師泰は四方に関所を設け、通行証で出入させた。保は詐り、百五十人を連れて邑に帰り、馬の餌を取ってきたいと頼んだ。吏は通行証を与えた。保は通行証を偽り、三百人と書き、泰藤  ・政貞と倶に関を出て杣山に入った。羲鑑及び三弟源琳・重・照は大に喜び、義治を推して大将にし、旗を挙げて兵を招いた。兵として聚るものは千余。北道の要所を食い止めた。

 

 

ホームページ編集人  見延典子
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