特別な記載がない場合は見延典子が書いています。

「吉田松陰」(2001)
「吉田松陰」(2001)

2018・10・19

田中彰著「吉田松陰」

 

私見ではあるが、吉田松陰ほどつくられた偉人はいない。松陰は老中間部詮勝暗殺を計画し、松下村塾の塾生を巻きこもうとした。どこの世界に自分の教え子を殺人に誘う教師がいるだろう。これだけ見ても、松陰を祀りあげる正当性は見いだせない。松陰に歴史的な価値があるとすれば「幕府大老の井伊直弼によって殺された」というあたりだろう。


吉田松陰の評伝はあまた刊行され、その評価は「革命家」「憂国忠君の士」「理想の教育者」などと変遷を遂げる。

 

明治維新の薩長閥によって日本の歴史が組み替えられる中、吉田松陰という異端が英雄化される過程に示唆を与えてくれるのが本書である。

 

徳富蘇峰も「吉田松陰」を書いているが、最初に刊行された内容と、改定して刊行された内容とには大きな差異がある。吉田松陰神社を訪ねたとき、蘇峰の碑を見た。蘇峰もまた松陰の評価の屈曲に関わっている。

 

 

2018・10・18

山路愛山著「足利尊氏」

 

山路愛山(1865〜1917)は徳富蘇峰の民友社に入り、「国民新聞」の記者として政治や史論を書いた。処女論文は本ホームページでも紹介したことのある「頼襄を論ず」、晩年に書いたのが「足利尊氏」で、今も名著として愛読され続けている。

岩波文庫 (1949)
岩波文庫 (1949)

文庫解説者の松本新八郎氏によれば「愛山は頼山陽を理想において自らを平民史家と呼んでいた」「自ら頼山陽を継承する在野の文章の英雄を自負し、その立場から英雄論を書き」、結実したのが『足利尊氏』であった。

 

しかしながら頼山陽は名分にもとるとして、尊氏に筆誅を加えている。

 

その点に関して「愛山は武士や農民の闘争を心理にまで立ち入り」「鎌倉幕府の滅亡を劇的ななまなましさで描きながらも」「古代王朝の倒壊を見なかった」として、明確にこそ書いていないものの、〃尊氏は天皇制堅持の立場〃だったという視点で描いたらしい。

 

『足利尊氏』が発表されたのは明治42年。翌43年に大逆事件が起き、これを契機に南北正閏論争が起きる。松本新八郎氏によれば、南北正閏論争は文部省、新聞社、政治家を巻きこむ極めて政治性の高い論戦で、最後は明治天皇も不承不承「南朝が正統」と認めるしかなかった。以降「南北朝」は思想上の踏み絵になっていく。

 

「いわば、愛山による足利尊氏の賞賛を最後として、尊氏は逆賊の標本とされることになった」「『足利尊氏』は南北朝正閏論争の前年に出されたため、在野の見解を見ることのできる唯一の名著となった」

 

近年、出版されている近代史の本をみると、南北正閏門論争があったこと自体が省略されているものが少なくない。大逆事件も然りである。現在、このあたりを調べているので、複雑な思いである。

 

2018・8・18

中津のオッサン

「徳冨蘇峰著『山水随縁記』」

 

「徳冨蘇峰著『山水随縁記』」(民友社、大正3年発行)は徳富蘇峰が日本画家平福百穂とともに、大正2年6月末から8月にかけて旅した紀行文。平福百穂の装画も多数収録。


初めに「耶馬渓及び瀬戸内海」の章があり、耶馬渓周辺の記述が多くある。頼山陽や田能村竹田についても書いている。

 

蘇峰によれば、休暇がとれたのでふらりと旅に出たとのことだが、平福百穂を伴っての旅はそれなりに計画があったのではないか。

 

国会図書館デジタルコレクションでも読める。

 

 

2016・2・15 徳冨蘇峰

中野好夫著『蘆花徳冨健次郎』

 

そろそろこの人と本気で向き合わなければならない。

 

徳冨蘇峰である。

どこから手をつけていいのかわからず、まず手にとったのが中野好夫著『蘆花徳冨健次郎』(筑摩書房 昭和47年) 

 

作家の蘆花は蘇峰の弟。家族をとりまく風景から入ろうと思ったのだ。

 

ところがこの本、評判に違わず面白すぎる。徳冨家の家系だからというより、人という生きものが理性だけでは生きていけないという事例がこれでもか、というほど出てくる。

 

蘆花は蘇峰と違い、江戸時代の戯作や人情本文学に沈溺した。そういうわけで滝沢馬琴は出てきても、頼山陽は出てこない。

今はほとんど語られることがなくなった作家 徳冨蘆花は蘇峰の弟。東京に蘆花公園がある
今はほとんど語られることがなくなった作家 徳冨蘆花は蘇峰の弟。東京に蘆花公園がある

 

たった一カ所、頼山陽の名前が出てきたと思ったら、当然ながらというべきか、蘇峰について書かれたところ。

 

それについては「『蒙古来』欅一枚板」で紹介しよう。

 

写真は中野好夫著『蘆花徳冨健次郎』より転載した。

 

 

   見延典子
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